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5時から7時までのジュヒ【映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で】 5시부터 7시까지의 주희/Juhee From 5 to 7

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ジュヒの周りに散りばめられ数々の言葉が、
彼女という人物を徐々に浮かび上がらせる

タイトルからも明らかなように、アニエス・ヴァルダの名作「5時から7時までのクレオ」(61)へのオマージュ。映画の冒頭で「自分はがんを患っているのかもしれない」と知った主人公が午後5時から7時という限定された時間で経験する出来事が描かれていく。主人公の職業が歌手から俳優出身の大学教授となり、年齢も20代から40代に上がっていることに加え、演出家である彼女の元夫が過ごす劇場のシーンが登場することで、オリジナルとは違った複線の物語となっている。
コロナ禍で仕事の予定が変わってしまった時期に、「眠れぬ夜」以降、友人となっていた俳優キム・ジュリョンに「室内で撮れるような小さな映画を1本やってみませんか」と声をかけて始まったという本作。チャン・ゴンジェ監督は当初、ジュヒの研究室内で起こることだけを撮影する予定だったというが、公演活動がストップしてしまった演劇俳優たちとワークショップをすることになり、急遽、そちらも映画の中に取り入れることにしたという。そのことを知らされたキム・ジュリョンは「私に夫がいたんですか?」と驚いたという。撮影は、大学でも教えているチャン・ゴンジェ監督の研究室で行われ、最初に訪ねてくる学生役などを実際の教え子たちが演じているとのこと。
「眠れぬ夜」と同じ名前のキャラクターに扮したキム・ジュリョンは、自身の意見をあまり語らず、聞き役に徹する主人公を穏やかに演じている。ジュヒの周りに散りばめられた数々の言葉が、彼女という人物を徐々に浮かび上がらせるのが興味深い。

【STORY】

検査を終えた医師から乳がんの可能性が高いと告げられた大学教授ジュヒ(キム・ジュリョン)。いつものように研究室へと向かった彼女は病気について検索し、年金について問い合わせの電話をかける。やがて、4年生のジユが訪ねてくる。調理師として働いた後、大学に入学した彼女は卒業を控え将来への不安を感じていた。部屋を出ようとする彼女を優しく抱きしめるジュヒ。
洗面所の鏡の前で胸元の感触を確かめた後、舞踊科の教授と出くわすジュヒ。自分がどれだけ多くの仕事を押し付けられているかを訴え、明るく立ち去る彼女を見送る。
小さな劇場で芝居の稽古が行われている。演出家のホジン(ムン・ホジン)が、「自由を得てこそ死に勝つことができる」というセリフに苦労する俳優ユラに何度もやり直しをさせている。しばらくして、劇場の外で先輩ムニョンと話をしているホジン。俳優たちを追い詰めるような態度をとりがちなホジンに対し、ムニョンは「ジュヒだから我慢した」と話す。ホジンはジュヒの元夫だった。
娘を預けている母からの電話を受けたジュヒは、若くして亡くなった叔母が乳がんだったことを知る。
ある夫婦の関係が決定的に壊れる瞬間を描いた芝居の稽古の後、楽屋に戻った俳優たちが、この芝居はホジン夫婦の実話なのではないかと噂話をしている。
ジュヒの研究室に学生ウンジョンがやってくる。休学明けの彼女はどこか不安そうな顔で「勉強したら生きるのが楽になりますか?」とジュヒに問いかける。

『5時から7時までのジュヒ』劇場初公開 5시부터 7시까지의 주희/Juhee From 5 to 7
(2022年/75分)

監督・脚本:チャン・ゴンジェ
出演:キム・ジュリョン/ムン・ホジン


孤高のインディペンデント作家が描く
“自分の物語”と“越境していく時間”

最新作「ケナは韓国が嫌いで」が公開となるチャン・ゴンジェ監督。
2009年に発表した「十八才」はロッテルダム、香港など12を超える国際映画祭に招待された。それまでにない感覚を持つ新世代の監督の誕生は、韓国のインディペンデント映画界におけるひとつの“事件”となった。
第3作「ひと夏のファンタジア」(2014)は、韓国でインディペンデント映画としては異例の3万人以上の観客を集め、チャン・ゴンジェ監督への注目度もアップ。
「十八才」、第2作「眠れぬ夜」(2012)で撮られたのは“自分自身”ということ。「十八才」では自分自身をモデルとし、「眠れぬ夜」では30代だった自分と妻の関係に目を向けた。
「ひと夏のファンタジア」では、モノクロとカラー、ノンフィクションとフィクションの融合という新たな形式を生み出し、映画は幻想性を纏った。その手法は2時間の間に演劇を入れ込むことで主人公の現在と夫婦の過去を並行して描いた「5時から7時までのジュヒ」(2022)にも表れている。

俳優、撮影、監督、プロデューサーと、様々な立場で映画にかかわってきたチャン・ゴンジェ。
現在の彼は「プロフェッショナルとしていい作品を作りたいという気持ちが強い」と語る。もちろん、彼はすでにデビュー作「十八才」から、独自の美学とリズムを持った映画作家であり、恋愛と結婚という普遍的なテーマを、リアルでありながらも幻想的な手法で見せてきた。
最新作の「ケナは韓国が嫌いで」は2023年の釜山国際映画祭のオープニングを飾るなど、インディペンデント作家のトップランナーとして、キャリアの可能性を開拓し続けている。今回、その軌跡が日本ではじめて辿られる。

【映画監督チャン・ゴンジェ 時の記憶と物語の狭間で】
配給:A PEOPLE CINEMA/chocolat studio