パルムドール、2度のグランプリ、監督賞など、カンヌ国際映画祭をにぎわせ続けてきたヌリ・ビルゲ・ジェイラン。
本作『二つの季節しかない村』はメルヴェ・ディズダルにトルコ人初のカンヌ国際映画祭最優秀女優賞受賞をもたらした。
音さえ吸い込んでいく雪深い景色の圧巻の美しさと、標高2150mにある世界遺産ネムルトダーの夏の雄大さ。人間の悲しいほどの卑小さ。ジェイランは、この荘厳な自然の大きさと、自我に縛られた人間の小ささを大胆に対比させる。
息もつかせぬ言い合い、目線に現れる感情の揺らぎ。
これまで同様、ドストエフスキー、チェーホフら世界の文豪作品に加え、太宰治らの私小説を思わせる感情の機微を圧倒的な演出力で描き出す。
美術教師のサメットは、冬が長く雪深いトルコ東部のこの村を忌み嫌っているが、村人たちからは尊敬され、女生徒セヴィムにも慕われている。
しかし、ある日、同僚のケナンと共に、セヴィムらに虚偽の“不適切な接触”を告発される。
同じころ、美しい義足の英語教師ヌライと知り合い・・・・・・。
プライド高く、ひとりよがりで、屁理屈を並べ、周囲を見下す、“まったく愛せない”のに“他人事と思えない”主人公サメット。
辺境の地でくすぶる男は、雪解けとともに現れた枯れ草に何を見つけ出すのか——。
『二つの季節しかない村』 About Dry Grasses
(2023年/トルコ・フランス・ドイツ/198分)
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
出演:デニズ・ジェリオウル、メルヴェ・ディズダル、ムサブ・エキチ、エジェ・バージ
脚本:アキン・アクシュ、エブル・ジェイラン、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
配給:ビターズ・エンド